※触手ネタ。
※仔細にではないものの、男性妊娠出産・発狂などの描写を含みます。バッドエンドです。
※一瞬でも「うえっ」と思った方は即刻退避を。閲覧後の苦情は受けつけられません。
人工太陽の日差しが木立の隙間から差し込んでくる。ヤンは顔に読みかけた本を乗せたまま、心地よい睡魔に身を任せていた。
ふわふわと揺れるような意識が、次第に輪郭を失っていく。せっかくの非番の日、昼寝をして夕飯までには帰ったらいいだろうとぼんやりと考え、――次の瞬間、凍りついた。
なにかぬるついたものが、ズボンの裾から入り込んでいる。虫や小動物の類はこの要塞にはいないはずだ。途端に睡魔が失せて脳が大音量で警戒信号を発する。本をはねのけて起き上がると、視界に暗赤色のいくつもの蛇のようなものが入ってきた。
立ち上がろうとすると、足首に絡みついたものがヤンを芝生の上に引き倒した。口の中に草と鉄の味が広がる。見れば《それ》は目の前にも這ってきていた。《それ》ののたうつ様のあまりの不気味さに、これは悪夢ではないかと本気で考えた。しかし醒めろと念じても変わるどころか気味悪さを増していく景色に、じわじわと恐怖が広がる。
戦場で恐怖を感じないといえば、欺瞞になる。だが相手は同じ人間で、同じ戦場にいる。恐怖は自分だけのものではないという思いは、ある種の覚悟にもつながる。けれど《それ》はまったく未知の存在で、本能的な恐怖を掻き立てられる。
「誰か、いないのか――?!」
返事はない。絶望感が頭の中を白くする。その隙を感じてか、《それ》はヤンの手首と足首に絡みつき、芝生の上にうつ伏せに縫い付けるようにする。
ブラスターを携帯していれば、少しは状況がよくなっただろうか?手首に絡みつかれ、《それ》を引きちぎることも不可能な状態にされて、ヤンは考える。せいぜい《それ》を撃とうとして、自分の身体に穴を開けるのがオチだろう。自嘲は、恐怖と交じり合って苦いものを口の中に広げる。
その間にも《それ》はヤンの身体の上を這う。グロテスクな感触に、胃の中から酸いものがこみ上げたが、突然唇を割って入ってきた《それ》に塞がれた。
「―――!!」
反射的に噛みつくが、《それ》はゴムのようで噛み切ることができない。その代わりに甘い液体がじわりと広がった。えずきたくてもできない苦痛で、額に脂汗が滲んだ。
「ふ……うっ……ぐ……」
《それ》は喉の奥へ入り込もうと蠢き、イラマチオを強要されているような錯覚に陥る。
「ふーッ……ふっ……」
鼻で呼吸を整え、嘔吐感を逃がす。ようやく少し落ち着いてきたかと思った瞬間、《それ》の先端から粘液が吐き出された。
「!!ぐえっ……!げっ、げぼ、っ」
《それ》が引きぬかれた瞬間、耐えられなくなって粘液と胃の内容物をぶち撒けた。それでも粘液の一部は飲み込んでしまい、得体の知れないものを体内に取り込んだことにゾッとした。
さらに《それ》はズボンの裾だけではなくシャツの隙間からも何本も侵入し、同じように粘液を吐き出した。体中がぬるぬると湿って服が肌に張り付き、なんともいえない不快感に身をよじる。その瞬間、濡れた紙でも破るように服が裂けた。
恐怖は、今度こそ巨大な重量をもってのしかかってくる。この粘液が消化液だとしたら、触れた肌も、飲み込んだ内臓もただでは済まないだろう。
しかし感じるのは予想される痛みや刺激ではなく、無数の虫が這うようなざわざわとした感触だった。そのうえ、熱でもあるかのように頭がぼんやりとする。腹の奥がずくずくと脈打つ。それは性感への期待に酷似していた。
「あ……う……」
全身を這いまわる《それ》によって、服はほとんど剥がされていく。空気に晒された肌が、発火しているように熱い。そこをぬるりぬるりと撫で回されると、紛れも無い快感が生まれる。
もしもこんな姿を他人に見られたらどうするのか。僅かに残った理性が羞恥を感じる。それでも、この状況から開放されるのならばマシなように思えた。
「……だれか……たす、け……」
荒くなる呼吸の合間に、なんとか絞りだす。しかしその声はか細く、とても助けを呼べるものではない。
それを嘲笑うかのように、《それ》は動きを激しくする。脇を、脇腹を、腕や腿の内側の柔らかい肉をぞるぞると撫でられると、堪えることのできない嬌声が漏れた。
「あっ……はぁ……」
せつなさが、胸を押しつぶす。さらなる快感を求め、腰が揺れ、きゅうきゅうと陰嚢と肛門が収縮するのを感じて、浅ましさで死にたくなる。だがそれ以上に、身体が快感を欲してたまらなかった。理性と肉体の乖離に、意識が混濁する。
次の瞬間、ずるり、と音を立てんばかりの勢いで、《それ》が尻の間を擦り上げた。
「ヒッ……!!」
電流が流れたような快感に、声が上擦る。《それ》はずるずると粘膜を擦り上げ、こね回す。かろうじて残っていた理性など、その刺激の前では簡単に霧散してしまった。
「あうッ……んッ……!はあぁっ…!」
唇の端からだらだらと唾液が溢れ、だらしのない喘ぎが漏れる。かくかくと腰が痙攣し、鈴口からはとろとろと先走りの液体が零れた。
と、太腿や腰に絡みついた《それ》が、腰だけを高く上げる体勢を取らせて硬化した。完全に下半身の身動きが取れなくなり、逃しようのない快感が、脳を犯す。
「ああっ!あっ、あっ」
《それ》の動きは激しくなる。紅く膨らんだ乳首をこね回され、後孔の粘膜を撫でられ続け、快感は加速度的に増大していく。そしてそれに比例して、せつなさで気が狂いそうになる。
「も、や、だ……アッ」
それだけは越えてはいけないという一線が目の前にある。しかし膨張する飢餓感と激感の嵐の中で、欲望の制御はもはや効かない。頭のなかにあるのは、《それ》に直腸をぐちゃぐちゃに掻き回され、前立腺を押しつぶされ、どろどろと続く射精感に溺れたいという欲求だけだった。
しかし《それ》は空気に触れている肌を撫で回すだけで、もっとも激烈な刺激を与えようとしない。 限界まで射精したいという欲求は高まっているのに、あと一歩のところで及ばない。手は拘束されているので自慰をすることもできず、快感と紙一重の、脳が煮えたぎるような苦痛だけが全ての感覚を支配する。
「あっ……ひっ……い……」
意識がホワイトアウトしそうになれば、快感で引き戻される。そしてまた失神寸前まで追いつめられる。時間にして数分の出来事が、ヤンには何時間にも感じられた。
「も……ゆる……ひてぇ……」
呂律が回らなくなった舌で懇願する。しかし《それ》には届かない。それどころか、動きはさらに激しくなる。
「あぁ……あぁぁぁ……」
生きながら、筋繊維の一本一本を剥がすように解体されているようだ。その苦痛に、ついにヤンは一線を越える。
「いれてぇ……おねがい……!お尻、ぐちゃぐちゃにしてぇ……!!」
その言葉を待っていたように、《それ》が肛門に突き刺さる。
「オオオおぉぉおおお!!!」
本来排泄以外で拡がることのない部分を開かれる悦楽に、瘧を起こしたように痙攣する。だが下半身は動かすことができず、その刺激をまともに受け止めることとなり、耐え切れずに射精した。
「イイッ……いいよぉ……!!おなか、きもひいよぉ…!」
もはや、自分で何を言っているのかもわからない。ずぶずぶと抽送を繰り返され、直腸の奥の奥まで蹂躙され、知覚できるのは「気持ちいい」という感覚だけだった。
「はぁぁぁいっちゃううぅぅぅ……またおしりでいっちゃうぅぅ!」
唾液が細かい泡となって、唇の端から吹き出す。人間の限界に達そうとする快感に、眼球が裏返り、まぶたがピクピクと震える。《それ》はそんなヤンの様子など意に介することなく、ズン!ズン!と前立腺を巻き込み、S状結腸を叩きつける。達したはずの陰茎から、精液なのか別の液体なのかわからないものが滝のように流れだす。
「あ゛……ぁ……」
やがてヤンは細かい痙攣を繰り返すだけになる。《それ》は最後の仕上げとばかりにすべての先端から大量の粘液を吹き出し、ヤンの身体を包み込んだ。
意識が途切れる直前、ヤンが見たのは、繭のように自らを包む白い糸状のなにかだったが、それについて深く考えるような悟性は、もはや彼の中には欠片も残っていなかった。
《薔薇の騎士》の必死の捜索によりヤン・ウェンリーが見つけ出されたのは、彼が突然姿を消してから一ヶ月後のことだった。要塞奥部、帝国軍が生物実験を行っていたと思しき放棄区画で、ヤンは無数のヒドラ状生物と共に発見された。
理性の光のない瞳は、しかし穏やかに、腕の中や、女性のように膨らんだ胸に絡みつくその生物を見ていた。それが授乳しているのだと気づいたとき、頑強な精神を持つ《薔薇の騎士》ですら、吐き気を催さずにはいられなかったという。
「かわいい私のあかちゃん……」
目の前に要塞防御司令官がいることにも気づかず、ヤンはヒトですらない生物を優しくあやす。そしてその生物は、おぞましくも、その言葉を理解しているかのように、細い触手を揺らめかせた。微笑するヤンの表情は無垢で、シェーンコップは自分が信じた知性が、この銀河から永遠に失われたことを悟り、瞑目した。
その後の処理は、すべて表沙汰にされることなく行われた。表向きにはヤン・ウェンリーは病死となっている。しかし彼/彼女は、何重にも隔離された実験室で、こどもたちを産み育て続けている。産まれた彼らがどんな酷い実験に遭っているかも知らずに、慈母のように微笑んでいる。
150928