サイケ・スローター・イディオット/h1>

※査問会ネタ。つまり輪姦。
※キャゼ←ヤン前提。
※そのくせ性描写より薬物とかの描写のほうが多いです。ご注意ください。そしてやはりご期待に添えず申し訳ありません。
※一瞬でも「うえっ」と思った方は即刻退避を。閲覧後の苦情は受けつけられません。





























 相変わらず一ミクロンの愛想もない夕食をとり、ただの湯よりマシという程度の紅茶を飲みながら、いかに皮肉を満艦飾に詰め込めるかと辞表の文面を考えていた。しかしなかなかこれというものが思い浮かばない。ただの罵詈雑言では駄目なのだ。辞めるに足る説得力と、あの“お偉方”に一発食らわせられるほどの痛烈さがなければ。
 机に足を乗せて、両手を頭の後ろで組んで天井を眺める。こういうときユリアンの淹れた紅茶でもあればいい案のひとつでも浮かぶかもしれないと思い、今頃イゼルローン要塞では皆どうしてるだろうかと思い、もし有事があったら最も地位の高いキャゼルヌが指揮を執ることになるだろうが後方勤務が専門の彼は大丈夫だろうかと思い、次第に思考がとりとめもなくなっていって眠気に変わっていくのを感じたそのとき、突然胃が反転したような吐き気に襲われた。トイレに駆け込む余裕もなかった。愛想のない夕食が半分ほど消化されて床にぶちまけられるのを見た。さらにぐらぐらと脳を直接揺さぶられているような目眩と共に、キラキラ光る極彩色の幾何学模様がそれにかぶさるのを見た。
 一服盛られた。そう確信した。しかし自分を非合法的手段で抹殺したところで、同盟政府にとってなんら戦略的益はないはずだ。そもそも自分をここに召喚したときからそのチャンスはいくらでもあったはずで、このタイミングで殺そうとする理由がわからない。おかしい。なにかが決定的におかしい。
 しかし吐き気にのたうち回りながら必死で頭脳を回転させても、それは次第に空回っていくようだった。目の前を真っ赤な△や□や◯がわらわらと横切っていく。その彼方にドアが開いて、警備もとい監視の士官が何人か入ってくるのが見えた。彼らはなにか話しているようだったが、鐘のなるような音が耳元で響いてよく聞き取れない。「……――が――……効いて――……」「――すぐに―――に運――……」そして二人の士官に両腕をとられ、引きずられるようにして廊下に出た。
 白いはずの廊下の壁にたくさんのカラフルな影が見えた。下手なトランペットを吹くブウブウという音や、キャハハハと子供の笑うような声がする。ふと顔を上げた時、目があった影はジェシカ・エドワーズの姿をしていた。心臓が嫌な脈の打ち方をした。ジェシカは悲しそうに言った。「ああなんて可哀想なヤン!あなたはこれから罰を受けるのよ。自分のしたことに相応しい罰を。その罰のひどいことと言ったらないわ。屠殺(スローター)よ!私たちがされたように!」ジェシカの美貌がぐしゃりと潰れた。
 屠殺――。その言葉が頭の中でぐるぐると回った。それに同調するように目に見える風景もぐるぐると回って、色とりどりの光の渦になり、そして気がついたときには、薄暗い部屋にいた。背中に柔らかい感触。ベッドかなにかの上にいるようだ。両手は動かせなかった。ガッチリと固定されているわけではなかったが、チャリチャリとなにか金属質の音がするだけで、自由とは程遠い。両足は自由だった。その足に、汗ばんだ熱い手が触れた。直接に、べたりと。それで自分が何も着ていないことに気づいた。
「具合はどうだね、ヤン提督?」
 たっぷりと厭らしさを滲ませた太い声は、自分に散々精神的嫌がらせを仕掛けてきた政治家のものだった。彼だけではない。他にも何人かいるのがわかる。息の音がいくつも嫌に鮮明に聞こえるのだ。昂奮したような、獣のような息の音。
「随分……変わった方法で査問をなさるんですね」
 精一杯に虚勢を張ったが、背中を流れる冷たい汗はどうしようもない。いくら危険に鈍いと言われても、ここまで直接的な形を取られれば嫌でもわかる。
「査問……査問ねぇ」
 つつ、と指がふくらはぎを伝うのを感じた。途端、びくりと身体が痙攣し、見開いた視界にパッとオレンジの花が咲いた。その拍子に、喉から甲高い音が漏れた。
「ほほお、これはこれは」
「なかなか……のものですな」
「わざわざフェザーンから高い金を出して買った甲斐があったというわけかな?君はどう思うかね、ヤン提督」
 自分の身に何が起きたのか一瞬理解できなかったが、単純なしかし残酷な解が導き出された。
 麻薬、あるいはドラッグの類を盛られたのだろう。幻覚も、感覚の異様な鋭敏さもそれで説明がつく。だが、それならば彼らの目的は……。
 吐き気はとうに治まっていたが、えづきそうになるのを止められなかった。
 腕は自由が効かない。だから足で相手の手を払いのけようとしたが、完全に逆効果だった。両足とも別々の手に掴まれて、ベッドに押さえつけられた。股関節が痛んだが、太腿の裏側に生暖かい吐息と舌とが触れるのと同時に、すべて吹き飛んでしまった。
 薄い皮の下の肉を、吸われ、噛まれる度に、見えないはずの花が咲き、星が散り、噛み殺した息が歯の隙間からフーッ、フーッと漏れた。
「我慢は身体に毒だよ」
 別の声。しかし朦朧とし始めた意識では声と名前がなかなか結びつかない。必死に探ろうとする思考を、激烈な感覚が断ち切った。
「あ、あ、あ、あっ」
 胸を弄ばれている。それも一番敏感な部分を、硬い指の腹で無遠慮にこね回すように。異常に歪められた感覚ではそれは背筋を奔る電流のようにも、金の幾何学模様の羅列にも思えた。それは胸だけではなく腕の裏からも脇腹からも伝わってくる。
 もう恥も体裁もない。やめてやめてと叫ぶ口の端から泡混じりの唾液が伝い、それをまた別の誰かが舐めとってそのまま唇を塞がれた。臭い。必死で顔をそむけようとするが、ぬるりと上顎の裏をねぶられて、身動きがとれなくなった。その間にも下半身を弄ぶ舌はより内側へ内側へと進み、とうとう柔らかい粘膜に触れた。大輪の花が咲いた。
「―――!!」
 上げた悲鳴は声にならなかった。ガチャガチャと頭の上の鎖が鳴る。それが銀の粉になって降りかかる。
「大したものだ!たったあれだけの量で、これほどの効き目とは!」
 興奮しきった声。しかしもはや脳は意味のある言葉として処理しない。ただ胎内に侵入しつつある指の感触を、その皮の皺一本一本まで鮮明に感じていた。それが耳にも「聴こえる」。あるときは甲高い女声のコーラスで、爪のつるりとした感覚は陶器の擦れる音で。指が引き抜かれるときのぶちゅりという音さえ、水色の輪の連続で感知された。その度に脳は壊れた機械のように、ただ「快」だけを認識し続ける。
「うあ、はは、凄いぞ、凄いぞ!!」
 誰かの一物を突き入れられた。その誰かは悦びに吼え、本能のままに腰を振る。鋭敏すぎる感覚はそのディティールを誇張し、脳のあらゆる箇所に伝える。繊細な轟音が耳をつんざき、白熱した光が渦になるのを見た。
「やだ、やだ、とけちゃうよ、のうが、ノウがとけちゃうよ」
「そうだろう、そうだろう!それほどイイだろう!」
 誰かはそのまま呻いて吐精した。それが腹の中で蠢いているのさえわかった。
「こども、こどもがいっぱい、いる、わたしの、なかで、わたし、わたし、おかあさんになる?」
 水分をたっぷり含んだ黒い目がしぱしぱとまばたきをした。一瞬、不安を覚えたものもいただろう。彼の言動は常軌を逸しつつある。いくら“薬”の作用とはいえ――……。しかし大方のものはまったく逆の反応を示した。神算鬼謀と謳われる頭脳を持つ智将が、従順な痴愚となって自分たちに哀れな姿を晒している!それだけで男たちの物は熱り立った。
 恥もなにもかもかなぐり捨てたのは男たちも同じだった。彼らもこの部屋を一歩出れば、相当な社会的地位を持つ者として振舞うのが、今は獣より劣る浅ましさで欲望を満たすためだけの行為を繰り返している。
 彼らは代わる代わる、類まれなる知性を化学物質によって剥ぎ取られた男を犯した。
 過剰に歪曲された刺激が絶え間なく与えられるうちに、現実を処理する脳の作用のどこかが焼き切れた。光の渦や極彩色の花が咲く幻は飽和し意味消失し、かえってそこに一人の男の像を描き出した。そして拘束している腕の鎖も不要になった。軍人にしては肉付きのよくない腕が、自分を陵辱する人間の首やら肩やらに回される。散々吸われ、ねぶられて紅く腫れた唇が、微かにせんぱい、せんぱいと喘ぎ出す。
「先輩?誰のことだ、ええ?よほど可愛がってもらってたんだなあ」
 大きく揺さぶられながら、こくこくと壊れた人形のように頷く。その拍子に汗がぱらぱらと散った。
「はい、はぁい、わたしも、あっあっ、せんぱいのこと、あっ、だい、すきです」
 そのまま黒い瞳が溶け出していきそうな目は、しかし現実世界の何も映していない。真っ赤に染まった目の端をぽろぽろと涙がこぼれていった。男はそれを舐め、腰を一層強く打ち付けた。
「まったく、果報な“先輩”だな!こんな、こんな素晴らしい身体で、さぞ楽しんだのだろうなあ!」
 ひあああ――、と悲鳴ともただ息が声帯を震わせたのともつかぬ嬌声が響く。ときに長く、ときに短く引きつるように。
 そうして一巡……二巡……と巡るにつれ、とうとう僅かな理性で異常に気づいた者がいた。
「おい、まずいのではないか?」
 は、は、は、と短く浅い息が異常に赤い唇から漏れている。反った喉が痙攣している。脈の打ち方がおかしいのは素人にもわかるほどだった。熱く煮えたぎっていた空気が一瞬で冷たい金属質のものになった。ここで自分たちが救国の英雄を「殺した」ということになればスキャンダルの域を超える事態になる。保身に余念がない男たちは恐怖し、狼狽した。
「絶対に安全だと抜かしたではないか、あの守銭奴ども!」
 散々にいたぶられた身体が慄え、口から唾液と精液が混じったものが細かい泡となって噴き出る。瞳孔の拡散しきった瞳が何も見ていない眼差しで宙を仰いでいる。一刻の猶予もないのは明らかだった。
 結局、男たちの一人のお抱えの「医者」が彼を治療した。
 その痩せぎすの、剥げかかった頭の老いた「医者」は、ヒッヒッと薄気味の悪い笑顔を浮かべて言った。
「しかしネグロポンティ閣下、随分なものを掴まされましたなぁ。あれはサイオキシン麻薬から抽出される成分と古代から続くデザイナードラッグを合成したものでしてね?確かに効果は閣下がよくご存知のように極めて強力なのですが、依存性と後遺症のリスクも極めて高いのですよ」
 ネグロポンティは青ざめた。確かにヤン・ウェンリーは目障りだったし、彼を辱めることで満足感も得られた。しかし彼が軍を指揮できないという事態になっては、自分たちの命が危険に晒されることになる。
「まあ依存性のほうはですねえ、ナノマシン治療によってかなり軽減されるのですが、フラッシュバックなどがねえ、心配といえば心配ですな」
「ということは、すぐに誰が何をしたか判明することではない、と」
「外傷もさほどありませんしねえ、それに記憶もかなり混濁していますし」
 露骨に安堵の表情を浮かべるネグロポンティの顔は醜悪であったが、「医者」はさほど気にもせず続けた。
「ま、あとはなるようになるでしょう」
「そ、そうだな。ご苦労だった」
 「医者」は一礼した。そして与えられた「治療室」――あるビルの地下に備えつけられた医療機器を備えた部屋――に再び足を向けた。
 ナノマシンは順調に破壊された神経系を繋ぎ直している。しかし後遺症が全く残らないというわけではない。それどころか、思いもよらぬ形で不意に幻覚や感覚異常が蘇ってくることがある。「医者」はそれを憂慮するどころか、喜悦さえ感じていた。社会の影となる場所でしか生きられぬ己が華々しい歴史の表舞台に立つ英雄の汚辱に塗れた姿を見、治療を施したことで、なんともいえぬ仄暗い優越感を感じていた。
「しかしまあ、英雄様も心に様々なモノをお持ちなことよ!」
 薄いミントグリーンの患者服を着せられたヤン・ウェンリーは、古びたベッドの上に膝立ちになり、法悦に満ちた表情で天井を仰ぎ、点滴やナノマシン誘導器が何本も繋がれた腕で、手を胸の前で祈るように組んでいた。
「先輩……先輩……」
 深い愛情に満ちた声で、姿の見えぬ誰かの名を呼んでいる。きっと彼にはその「誰か」に愛されているのだという確信があるのだろう。しかしそれは“薬”の後遺症の一つである多幸症によるものだ。長くは続くまい。
 待っているのは現実だ。「医者」はヒヒヒと笑って、薄暗い廊下に姿を消した。




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